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スロウな本屋 店主おすすめ ほんのはなし

ことばのお守り

『かんしゃになろうよ。こころで、』

自分のこころから、あたためな。

だんしやで、イケメンやで、男前やで。

佐藤春菜さん。1990年大阪生まれ。生後2週間目にダウン症のあることを告げられる。1997年より、「アトリエひこ」(大阪市平野区)に参加、創作活動をはじめる。10歳の頃、文章が書けるようになり、それからほぼ毎日何かしらを書いている。

本書『かんしゃになろうよ。こころで、』は、ダウン症のアーティスト、佐藤春菜さんの作品集。詩のような、絵のような、新しい「ことば」の力が、読む者をあたたかく包み込み、魅了する。

おもいでがはじまるね。
おもいでになりましょう。
おもいでをつづけよう。
これから、おもいでになってきます。
おもいでをがんばろう。
おもいでにおつかれさまでした。
おもいでをおわります。
おもいでにありがとうございました。

今日は、やすんでいます。ゆくっりしています。まだしんどいです。偉いこちゃ。助けて。空から見ています。頑張ってね。おうえんしています。死にそうです。咳が、ひどいです。苦しいです。

春菜さんの作品の合間には、アトリエひこの石崎史子さんの挿話が綴られる。石崎さんが見つめる春菜さんの制作風景は、まぶしく輝いている。

春菜ちゃんから「スローガン」ということばが出たときは驚いた。中学生になり、体育会系の先生とクラスでスローガンを決めて、「がんばれ、わっしょい えいえいおー!」とやっていたそうだ。
「これからスローガンをします」と言って、最初に書いたのは「いちにちおもいでをつづけよう。」
アトリエの友達は、ちょっと元気がないとき、人生の節目を迎えようとしているとき、春菜ちゃんに、自分宛てのスローガンを書いてほしいと頼む。春菜ちゃんは「うん、ええよ」と、友達の置かれている状況を知ってか知らずか、とても的確なスローガンを書いてあげている。文字を読むことができない友達がほとんどなのだが「おー、すごい。はーちゃん、ありがとう」と、大事にスローガンを持ち帰っている。みんな春菜ちゃんのスローガンのちからを信じきって疑わない。

大人だって、スローガンを書いてほしい時がある。しんどい時。落ち込んだ時。もう立ち上がれないと思った時。春菜さんのことばをもらえたなら、どれだけうれしいことだろう。

OKですね。ぜったいOK

しんどくなるなよ。

せーの バンバンバンバン ワッハハハ バンバンバンバン

春菜さんがつむぎ出すことばと絵。そのひらめきとユーモアに圧倒され、そして脱力し、不思議な力をもらえる気がする。石崎さんは、こうも綴る。

単語が延々と並ぶ。歌のタイトルがひたすら160個羅列してある。すべて思いつくまま書いていったものだ。圧倒的な集中力でていねいに止まることなく、紙がなくなるまで書き続ける。こんなとき、春菜ちゃんの想像のつばさはどのようにはばたき巡っているのだろう。その秘密の軌跡を覗かせてもらっているようで、申し訳ないような神妙な気持ちになってします。しかし声に出してみると聞こえてくる力強い音の響きとリズム。ひたむきにこの世界を歌として捉えようとしている。

カラフルな色鉛筆やペンでびっしりと書かれた直筆の文字を目で追っているうちに、スーッと別の世界へトリップしたような、不思議な感覚になる。さっきまで囚われていた日々の些細なものごとなど、春菜さんのことばの力が吹き飛ばしてくれる。

まんぞくになろうよ。
みんなで、にんげんになろうよ。
なつやすみをかんじていこうよ。
にんげんになって、げんきにいこう。
からだに、しあわせをつくろう。

「障がい」とは、一体何なのだろう。春菜さんのことばの海にここちよくたゆたいながら、そんなことを考えているちっぽけな自分がいた。

文/小倉みゆき

かんしゃになろうよ。こころで、

作/佐藤春菜
出版社/ホホホ座 アトリエひこ
サイズ/68ページ 18*25.5cm
発行(年月)/2017年4月

販売価格 ¥ 1,620(本体 ¥1,500)

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