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スロウな本屋 店主おすすめ ほんのはなし

考えることをやめないために

『僕は、そして僕たちはどう生きるか』

考え続けよう。
「自分は何が好きで何が嫌いか。他人がどう言っているか、定評のある出版社が何を出しているか、部数の多い新聞がどう言っているか、じゃない、他ならぬ自分はどう感じているのか」

主人公は「コペル」と呼ばれる14歳の少年である。そう、あの吉野源三郎さんの名著『君たちはどう生きるか』に因んで命名された。ある日の朝、染織家の叔父ノボちゃんを手伝って、材料を採取する手伝いをすることになったコペル。除草剤や排気ガスなど人為的なものがかかっていない清浄なヨモギを探しに、親友ユージンの家を叔父と訪ねる。

代々裕福な農家だったユージンの家は、広大な敷地が森のような防風林で囲まれている。自動車道建設で近隣の谷地や林が破壊される際、ユージンのおばあさんは屋敷の敷地内に様々な草花を移すような人だった。おばあさんが亡くなった後、ユージンは、ひとりこの屋敷に住んでいる。学校に行くのは小学6年生でやめた。

ヨモギを採りに行くだけのはずだったその日、コペルはユージンの家で、その庭で、それぞれに孤独や闇を抱える繊細なこころの持ち主たちと出逢い、自分自身気付いていなかった自らの弱さに正面からぶつかり、戸惑いながら、生涯忘れられない一日を過ごすことになる。

食事の準備をするコペルたち。庭の草を食べられるのではと話すうちに、コペルとユージンは、幼い頃読んだ屋根裏部屋の『時局本草』を思い出す。本を見ながらおばあさんがよく作ってくれた「葉っぱごはん」を作ることに。摘んだ菜を刻む音、ご飯の炊ける匂い、おばあさんが使っていたおひつ…。登場人物たちが次第に打ち解けていくのは、やはり食の力なのか。『西の魔女が死んだ』 『からくりからくさ』の梨木果歩さんらしい、五感を刺激する食卓シーンだ。

吉野源三郎さんの『君たちはどう生きるか』が書かれたのは、世の中が戦争に向かっていた時代。「人生いかに生くべきか」と、未来を担う子どもたちに投げかけた。「どういう場合に、どういう事について、どんな感じを受けたか、それをよく考えてみるのだ。そうすると、ある時、ある所で、君がある感動を受けたという、繰りかえすことのない、ただ一度の経験の中に、その時だけにとどまらない意味のあることがわかってくる。それが、本当の君の思想というものだ。これは・・・(中略)常に自分の体験から出発して正直に考えてゆけ、ということなんだ(『君たちはどう生きるか』より)

初代「コペル」から時を経て、日本の社会が急速に変わろうとしている今、梨木香歩さんの「コペル」は私たちに問いかける。「僕は、そして僕たちはどう生きるか」と。両親の離婚、環境破壊、性暴力、兵役拒否、集団の圧力…。現代を生きる登場人物がそれぞれ抱える過去のエピソードが絡み合い、何かおかしいと思っているうちに、気付いた時には遅かったということが本当に起きてしまうこと、あれよあれよという間に事態は進んでしまうことの恐ろしさが、あぶり出される。なぜだか現在の社会情勢と重なって見えて仕方ないのは、私だけだろうか。

考え続けよう。
「大勢が声を揃えて一つのことを言っているようなとき、少しでも違和感があったら、自分は何に引っ掛かっているのか、意識のライトを当てて明らかにする。自分が、足がかりにすべきはそこだ。自分基準で『自分』をつくっていくんだ」

大人はもちろん、コペル君と同世代の中高生の方にも、ぜひとも本書を読んでほしい。そして、考え続けよう。この本の最後のことばを、コペル君同様、必要な時に、必要とする人に、届けることのできる力を身に付けられるように。これからの時代を生き抜く力を身に付けられるように。

「やあ。
よかったら、ここにおいでよ。
気に入ったら、ここが君の席だよ。」

文/小倉みゆき

僕は、そして僕たちはどう生きるか

著者/梨木香歩
出版社/岩波書店
サイズ/274ページ 15×10.5cm
発行(年月)/2015年2月

販売価格 ¥ 928(本体 ¥860)

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